ぼぅっと揺れる波を眺めるのが最近日課になってきた。無心になれる。白波にのまれる蒼。あぁいずれ自分も飲まれてしまうのか。何かに。
そう思ってしまうのは何故だろう。恐れ。、何から?暫し考えた末、出た結果は何もなかったので忘れるように首を左右に振ってないものとした。
潮風が髪をそっと撫でて心地良い。目の前に広がる場所に僕が入ったらどうなるのだろう。またこの地へ帰ってくることは可能だろうか。それと
も一生戻ってこれずに一体化してしまうのだろうか。チッと舌打ちをして近くに転がっていた石を思いっきり投げた。ぽちゃんと小さな音を出して
それはもう姿を見せることなく蒼いものにゆっくり吸い込まれていった。やってらんねー!大声を出して体を後ろに傾け仰向けの形になる。広が
るのはもう1つの蒼の世界。
「アウル。」
「、ステラ。」
顔を覗き込むようにぬっと現れたのはステラ。金髪が太陽の光でさらにキラキラと輝いて眩しい。何しに来たと問えば海見に来たのと言う。コイツは
海が好きだ。何で、と聞くとわからないと答える。今だって隣に膝を腕の中に折り畳むようにして座り黙って海を眺めている。ちらり、と横顔を見てみると金髪が風の向きに従うようにゆらゆらと揺れていた。まるで彼女の視界に映る白波のよう。今彼女を独占しているのはネオでも、スティングでも、僕でもない。彼女の目の前に広がる真っ青な海だ。
「・・・・あー畜生。」
「、アウル?」
顔だけこちらに向かせて首を傾げる彼女に何でもねぇよと言って上半身を起こす。上に広がる真っ青な世界と、目の前に広がる真っ青な世界。僕は上の真っ青な世界な方が好きだけど彼女は目の前に広がる、ゆらゆらと揺れる白波がある真っ青な世界の方が好きで。わからなくなる。見上げると白い雲がゆっくり、ゆっくりと動いていた。視線を少し下げると呑気に気まぐれに揺れる白波と蒼い色を纏った水が仲良く遊んでいて。わからない。何でこんなものが好きなのか。何でこんなものがあるのか。っだー、もうわかんねぇ!と呟きながら頭をがしがしと掻き毟っているとソプラノじみた声が耳に入った。
「アウル。」
「何だよ。」
「、海・・・嫌いなの?」
「そーだよ。嫌いだよ。悪いか。」
ぶっきらぼうに、半ばやけくそになりながら言うと彼女はふーんと言って僕に向けた顔をまた海に戻した。何だっていうんだコイツは。むしゃくしゃした気分になったのでスティングでもからかってやろうと立ち上がる。すると海・・・、綺麗なのにという声が聞こえた。綺麗?海が?お前何言ってんだよわかんねぇなもう。そう言うとステラはふっと微笑んで目の前に広がる世界を指差して言った。
「だって、あんなに綺麗に輝いてるのに。」
指を辿って何度も見た海を見てみるとおはようの合図と一緒に出てきた太陽が今度はさようならと言って水平線の下へ隠れようとしていた。夕日がプレゼントする橙色の光が屈折のせいか金色となり真っ青な世界と交わる。それに混ぜて!と言わんばかりに白波が揺れていて。綺麗、としか言い様がなかった。立ち尽くしている自分に彼女は「ね?」と首を傾けて笑う。瞬間、金色の髪も揺れた。あぁそうか。
「あぁ、綺麗だな。」
何で海を見ると恐怖心が募るのかがわかった。何もかもがのみこまれて、ネオも、スティングも、ステラもいなくなってしまう気がしたからだ。でも違う。それは自分のただの想像でしかなくて。現実は僕達に魅せようとしているだけだったんだ。綺麗、と誰かが思ってくれるように。真っ青な世界に金色
が混ざると、とても綺麗に見えるんだ。
「ステラ。」
「アウル?」
「お前も、綺麗だよ。」
金色の髪に指先を触れさせて言うと彼女はにっこり笑って「ありがとう。」と言った。真っ青な世界に金色が一緒になると人は綺麗と言う。それは僕達でも同じかもしれない。
泡立つ
殺
意
2006.4.2
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