ふわりと桜色をした彼女の髪が風で舞い上がる。小さな声を上げて彼女は髪を押さえつけたが正直勿体無いと思った。
周りの緑と彼女の髪が凄く綺麗にマッチしていたからだ。でもそのことを彼女には伝えず笑顔で「大丈夫か?」と言う。
「大丈夫ですわ。アスラン。」と彼女は同じように微笑んで答えてくれた。止めた足を再度動かし彼女と肩を並べて歩く。
何年振りだろう。彼女とこうして肩を並べて歩くのは。婚約者だった彼女とこう歩くのは今改めて思うと初めてかもしれない。
他愛もないことを考えながら隣に目をやるといるはずの彼女がいなかったので思考が一瞬止まった。
「ラクス?!」と声を上げて後ろを振り向くと「ハイ?」としゃがみこんでこちらに笑顔を向けている彼女が視界に入ったので安堵した。
はぁとため息を吐いてラクスに近付き「急にいなくなるな。」と一言言うと「ゴメンなさい。でも・・・ホラ。」と柔らかな笑みで何かを指差す。
指の先を見ると小さな花が咲いていた。たった一輪でも頑張って根を土に這わせて。
「ね?綺麗でしょう?」
「・・・、ああ。」
彼女の笑みにつられて言ってしまった。同意の言葉。本当は別のことを言いたかったのに。彼女に言いくるめられてしまったのだ。
花の周りに目をやると見える小さな芽の数。この花の仲間だろうか。とてもたくさんあった。彼女も見つけたのか優しい笑みでそのなかの
1つに入る小さな芽にそっと手を添えた。この芽はしっかりとつぼみをつくり、綺麗な花を咲かせることが出来るのだろうか。
「・・・・?、アスラン?」
「・・・・・・・俺は」
何かおかしいと思ったのか、ラクスは顔を少し傾けて視線を自分に向けていた。それに答えるように彼女の横にゆっくりとしゃがみこみ、
喉から出掛かっている言葉を呟いた。
「色々な、・・・奴等の命を奪った。家族や友達、恋人もいたかもしれないのに。この花も、」
自分達を照らしていた光が雲に遮られあっという間に影が出来る。花も芽も、影に覆われて綺麗だと思わせていた花弁の色が黒に変わって滑稽に
見えた。脳裏に浮かぶことは自分が犯してきた最大の罪の数々。しかし、結果的には良いこととなって終わった。戦争を終わらせたのだ。自分達は、自分たちが戦ったから。『矛盾』と言うものか。
「・・・・この花もその人達のようにまた、奪われていくのかもな。仲間を・・・」
後に続く言葉を飲み込む。言ったら本当にそのようになってしまうかもしれないという恐れのせいだ。今更こんなことを彼女に言って何になるんだろう
と思い立ち上がろうとすると彼女の凛とした声が聞こえたのでぴたりと止まる。横を向くと切なそうな表情をして花を見つめているラクスがいた。
「小さいこの花も、芽も生きています。また、同じように死んでいきます。『死』においやるのは主に私達、『人間』です。だから、その罪を償うために も許しを請うためにも私達のせいで失ってしまわれた仲間のためにも・・・・私達は新たな種を、花をうえていかなければなりません。それが私達の 『希望』なのですから。」
彼女の言い分は最もだ。けれど『矛盾』という言葉にはいつまでたっても勝つことはない。
「うえても飛ばされる、踏まれる。わかってはいるのに『希望』にしがみついている自分達がいるんだ。」
「飛ばされても、踏まれてしまうことになっても。『生きたい』という意志が強ければこうして咲くことが出来ます。花は咲くことによって生きている証を 残すのです。」
生きている証。生きている証とは何なのだろうか。それは絶対に答えが出ない永遠の問いかけとでも言おうか。生きている証を探したいから、生きている証を残したいから、自分は戦争に加わったのかもしれない。何も出来ないのが嫌だからという表面上の綺麗事の理由をつけて。瞼を一瞬閉じてゆっくりと開きながら立ち上がる。同時に風が吹いてきて花弁を揺らすが散ることはない。必死に踏ん張って風に耐えていた。黙ったまま、また彼女の言葉に耳を傾ける。
「そして、私達は守らなければならないのです。うえた花を、まいた種を。そうすればきっと。・・・いえ、必ず。たくさんの綺麗な花が咲いて『希望』から『真実』に変えて下さいますわ。」
柔らかな微笑みで彼女は言った。最後の言葉を言う時に僅かにだが視線が合った。『希望』から『真実』に変える。妙に納得出来てしまった。ただ自分は逃げていただけなのかもしれなかったから。恐れていただけなのかもしれない。『生きたい』と願うことに自分のせいで失ってしまった・・・失ってしまわれた人達に遠慮していただけなのかもしれない。『生きたい』と思っていい。『生きたい』と思うから、この花を、人々を、正々堂々と守れるのだ。
「・・・・そうだな。」
立ち上がろうとする彼女に手を差し伸べて言う。もう何も恐れなくていい。『生きたい』という意志があるから。彼女の手と自分の手が重なり合うのを見てゆっくりと引き上げる。
「『生きたい』という意志をもつ・・・『希望』から『真実』に変えることが、今の俺たちのやるべきことだ。」
雲が移動して、光がまた自分たちを照らした。影で黒になっていた花弁の色が、自分達の前に姿を現す。真っ白な花弁が。今なら心の底から言うことが出来るこの言葉。
「綺麗な、花だな。」
「、ええ。本当に。」
自分の言葉に彼女は心から同意してくれた。ふっと微笑んでから「行こう。」と言うと「ハイ。」と返してくれる。先程のように彼女と肩を並べて俺は足を動かした。
小さい花
書くのにものすごく苦労したやつかもしれない。
色々な人がいると思うんですよ。「生きる」という意味はね。
その色々な人の中でアスランとラクスはこう思ってるんじゃないかなーって。
思いながら書きました。最初に出来たのはセリフ。ラクスはこう言ってアスランはこう言うみたいな。
我ながら難しいことをテーマにして書いたなァと思っています(苦笑)
『矛盾』『生』『希望』『真実』この4つの言葉は絶対入れたかったんです。
何て言うんだろうな。・・・いっつも思うことなんですけど言葉って難しいですね。
これを読んで「何か」を感じとって下されば幸いです。その「何か」は人によって違うと思うので。
うん。難しいね(笑)
ちなみにアスランとラクスはキラとカガリとの待ち合わせ場所に向かう途中・・・との設定です。
2006.2.11