Do you love me?












「仁王と何かあった?」


机の上にある私のペンをくるくると器用に回しながら彼は言った。窓の外は部活活動時間のため活気のある声でいっぱいになっていた。下を向くとどうしても垂れてくる髪を耳にひっかけて目の前で手伝ってくれている彼の方に顔を向けるとにこり、と。微笑まれてしまった。制服ではなくて学校のジャージを身につけている彼は今の私に言わせれば手の届かない星のような人。廊下を歩くだけで擦れ違う女子が二度見して傍にいる友達と赤い頬をして騒ぐ。いわゆる人気者だ。彼が言った言葉を聞いてなかった振りをして日誌に今日の出来事を書いているともう1度、彼は口を開いた。仁王と、何かあった?同じ言葉をそのまま。ゆっくりと。


「あったよな。」


確信をもったような声。頬杖をついた彼に映る私はどんなんだろう。挙動不審にでも見えるのかな。シャーペンで書く速度が無意識の内に遅くなる。ちらりと前に視線を戻すとじっとこちらを見つめていたためすぐに下へと戻す。どう見ても穏やかではないこの空気を和ませるように私の背後にあるドアがガラガラと音をたてながら開いた。反射で顔を後ろに向けると目に入ってきたのは銀色。窓から差し込む茜色の光に上手くマッチして綺麗なグラデーションを創り上げている。仁王。私が口を開く前に丸井くんが先に言ってしまった。どうしよう。まだ、考えていないのに。


「丸井、何してると。」
「日直。真田に言っといたと思うんだけど。」
「勘違いやね。真田怒っとる。」


スカートをぎゅっと握りしめる。どうしよう。あの時の仁王くんはウソをついてるとは思えなかった。だからこそ、だからこそ会わないようにしていたのに。こんなところでヘマをしてしまうなんて。丸井くんが仁王くんとの壁のようにいてくれなかったら私は何も喋れなかっただろう。二人の会話を耳にしながら私はどうやってこの場を切り抜けよう、そんなことしか考えてなかった。


「もうすぐで終わるからって真田に伝えとけ。」
「、了解。」


しっし、とまるで犬を扱うような仕草で丸井くんは仁王くんをドア付近まで追いやった。ガラガラとまたドアが鳴く。よかった。そう一安心して一息ついて俯いていた顔を上にすると私の方を向いていた仁王くんとばっちり、目が合った。どくん、と心臓が飛び出しそうなくらい跳ね上がる。3秒くらい見つめあった後に早くしんしゃいとだけ言って仁王くんは教室から姿を消した。静まり返った教室には私と丸井くんしかいない。寂しそうに転がっていたシャーペンを手に持ち、私は日誌の続きを書き始めた。




Do you love me?




2006.5.18