風景が横を通り過ぎては、また横を通り過ぎる。電車に揺られること1時間半。私は中学受験をしたた
め電車で学校まで通う。毎日同じ時間、同じ電車なので3年目になるとさすがに飽きてきて何か刺激が
ないかなァなんて思っていた。最寄駅から5つ目の駅に着いたら私は髪をチェックする。そして一緒に
来ている友達に変じゃない?変じゃない?と何回も聞くのだ。変じゃないよ大丈夫。5回もその言葉を
聞いた時丁度6つ目の駅に到着してドアが開く。友達と話しながらちらりと横目で彼が来ているか確認
する。良かった。いた。
「あーもーマジありえねー!」
「まぁまぁいいじゃないッスか先輩。」
「お前のせいだろ!あー・・・ありえねー・・・。」
「真田副部長、最近怖いッスからねぇ。」
うんうん、頷いて背負っている重そうなテニスバッグを少しくせっ毛のある男子生徒は肩から下ろした。
お前反省全くしてねぇだろ。してますよ失礼な。会話が一時中断したと思ったらべしっといい音がした
ので肩がびくっとはねてしまった。何するんスかー!うるせェ!お前が遅刻したせいで俺も遅刻するは
めになっただろうがバカが!そうっと彼らを見るとまたくせっ毛の子は頭を叩かれていたので正直可哀
相と思ってしまう。そんな私の思いとは裏腹に叩いた本人、赤毛の男子生徒は当たり前だと言ってもう
一度くせっ毛の子の頭を叩いた。
「、聞いてる?」
「え?あ、ゴメン!」
ミッちゃんの声で慌てて目を戻すと私の視線の先を辿って事情がわかったのかにやり、と口元が笑った。
しまった。墓穴を掘った。心の中で自分自身に馬鹿と言う。ミッちゃんは親友なので私の思いは前から知
っているがもう一人のトモちゃんは知らないのだ。ねぇ、。な、何?私の前にいるトモちゃんが肩に手
をおいていつもと違う、何かを追求するような声で話しかけてきたので思わず声が上ずってしまった。
「あの制服って、立海大だよね。」
「そ、うなんだ。」
「知らないとは言わせないから。今見てたの、あの人でしょ。」
トモちゃんの指の先を辿ると胸が高鳴る。いつの間に座っていたのか。彼の背から朝日の光が差しこん
で赤い髪に照りつけ眩しくて目が細まる。そういえば先輩、昨日告られてましたよね。あァ?まだ不機嫌
なのか赤毛の人の方はくせっ毛の子に反抗するような声を返した。告られて。その言葉が耳にリピート
される。告白。確かに彼はカッコいい(ジャニーズに入れると思う)共学なんだから女の子等がほっとくわ
けないだろう。
「、大丈夫!アンタは充分カワイイから丸井くんに彼女がいても奪えるよ!」
「へ?!」
「頑張れ!目指せ略奪愛!」
「ちょっ、ちょっとトモちゃん!」
いきなり何を言い出したかと思えば。彼女は私の肩に置いた手の力を強くして逆の手で拳をつくって言
ってきた。丸井くん。トモちゃんの口を両手で塞いで彼に聞こえていないか確認すると普通にくせっ毛
の子と喋っていたのでホッとしてから小声でトモちゃん、と呟いた。
「お願いだから大声で言わないで!バレたら死んじゃう!」
「、その前に手離してあげないとトモが死んじゃうよ。」
ミッちゃんの言葉に慌てて両手を離してゴメン!と謝った。だ、大丈夫。トモちゃんは肩で息をしたと
思ったらすぅはぁと深呼吸を繰り返しはぁと大きな息を吐いた。首を傾げてどうしたの?と言いたいの
を伝えると俯いていた彼女が勢いよく顔を上げたので少々驚きながらもど、どうしたの?と言い切った。
どうしたの?、じゃない!丸井くんに彼女が出来たらどうするの?待ってトモちゃん。え?
「あの人、丸井くんって言うの?」
「・・・・・・知らなかったの?」
ゆっくり首を縦に振るとミッちゃんまでもがはぁとため息を吐いたのでえ?!と焦る。丸井くん。丸井
くん。小さく何回も呟いて脳に絶対に忘れるな!と言い聞かせる。トモちゃんの話によると丸井くんは
立海大テニス部3年レギュラーで女子にかなり人気がある人(トモちゃんの情報網はスゴい)で、ファ
ンクラブもあるとかないとか。そんなスゴい人だったんだと彼に視線をやるとバッチシ目が合ったので
思いっきり目を反らしたらトモちゃんにバカ!と頭を叩かれた。
「痛いよトモちゃん!」
「何で視線反らしてんの?!バカじゃないの?!」
「なっ!」
「もー!そういう時はにこっって笑うの!笑顔!スマイル!」
じたばたともどかしそうにして彼女は私に言い放つのと一緒にミッちゃんが車両内に響き渡るアナウン
スを聞いて着いたよと言う。ふぅと息を吐いてカバンを肩に持ち直すともー本当はバカとトモちゃ
んが追い討ちのように言ってきたので苦笑して交わした。丸井くんとはまた明日だなァ。あーあ。トモ
ちゃんが言うように笑っといたら何か変わってたのかもしれない。、なーんて思いながらドア付近まで
足を動かして電車が止まるのを待った。
「先輩!早くしないと降りちゃいますよ!」
「っだー!うるせぇバカ也!黙れお前!」
「だって本当に行っちゃうって!」
降りる瞬間、彼らの会話が自然に耳に入ってきたので目を向けるとまた丸井くん本人と目が合ったので
トモちゃんに言われたとおりにこっ(って言えるかはわからないけど)って微笑んでから私は前にいるミッ
ちゃんとトモちゃんの背中を追った(恥ずかしい!絶対顔真っ赤だ!)
「・・・先輩。」
「・・・んだよ。」
「、顔。めちゃめちゃ赤いッスよ。」
「うっせ!」
明日も丸井くん、いたらいいな。くせっ毛の子がまた遅刻してくれないかな。そんなことを思いながら私は
学校に行くのだ。
いつか彼と話せることを願って
2006.3.27