ボールの弾む音が耳に入る。既に空は黒に染まりきっていた。教師からして見れば何でこの時間にまだ学校内にいるんだ、と思うだろう。ボールの音が近づくにつれて自然に私の足も速まり、頬も緩んできた。緩む頬を押さえながら小さな声でこんばんわーと呟きつつ目の前にある扉を開く。スライド式で横に引くとガラガラと鳴った。


靴と床の擦れ合う音がする。キュッキュッと。前にいる彼は私が来たことはおそらく気付いてはいない。ただボールを弾ませて、リングに向かって投げていた。彼が放ったボールがリングに吸い込まれていくと自然に私は拍手をしていた。その音でこちらを向いた彼と初めて視線を交えるのだ。


「。」
「お疲れ様。」


微笑んで言うと彼も微笑んで床においてあるタオルで汗を拭った。所々に転がっているボールを片付けようとする仙道に待って、と静止の声をかける。


「何?」
「まだ終わってないんでしょ?続けていいよ。」
「でも、」


お前が困るだろ?外、もう暗いし。窓の外に広がる暗闇を目で示して苦笑して彼は言葉を返してきた。それに私はゆっくりと左右に首を振って口を開く。大丈夫だよ。


「親は今日帰り遅いし。それに、仙道がバスケしてるとこ、見てたい。」


カッコいいからね。付け加えで言ってからはにかむと彼は一瞬きょとん、となったがすぐにふっと微笑んだ。わかった。それだけ言うと持っていたボールを弾ませてまた、リングに向かって投げた。
私の耳には綺麗にリングに吸い込まれていったボールの音が聞こえた。







2006.6.29