「。」
背後に人の気配がした。けど振り向く事は絶対なくて。鼻をすすると女の子にしては汚いといえる音が
でてはぁとため息が一緒に聞こえた。私悪くない。心の中で永遠にぐるぐると回り続けている言葉。私
は絶対に悪くない。あの子がいけないんだ。風が結わっている私の髪を持ち上げて前から後ろに移動
させる。はぁとまたため息が聞こえたかと同時に私の世界は揺らいだ。今が一番不安定なのにあの子
があんな事を言ってきたせいで完璧に罅が入ってしまった。繋ごう、くっつけようと頑張るが無理なよう
で。私は。私は、悪くない。
「、」
牧のいつもと変わらない声が涙腺を刺激する。目元にじわじわと涙が溜まって頬に伝っていくのは時間
の問題だ。膝に突っ伏している力を少し弱くし風を通らせる。寒い。そういえば私はワイシャツ1枚だ。牧
はどうせブレザーも着ているんだろう。私の世界はきらきらと綺麗に輝いていたはずなのに。今は信じら
れないほど汚くて。棘もたくさん刺さっている。とろうと試みると逆にもっと棘を増やしてしまう。だからそっ
としておいたのに。あの子のせいでまた触れることになってしまった。私、見たよ。女の人と歩いてたとこ。
あの子の言葉が脳内でエンドレスでリピートされている。信じたくないのに。信じてしまっている自分が嫌
で堪らなくて。思いっきり頬を叩いてしまった。傍にいた神に止められて自分が何をしたかわからなくてた
だその場にいたくなくて此処にきた。信じてはいない。信じてはいないのに私の世界は揺らいでしまって。
「、あの人は違う。湘北のマネージャーだ。」
湘北。信長くんのライバルの流川くんがいるところだ。顔を上げて後ろを振り向くと牧は呆れた顔で微笑
んでいた。その表情を見たら一気に世界の棘がまた元の綺麗な丸に戻り、私の目から涙を流させた。ぼ
ろぼろと流れるそれはまるで卒業式の時のように止まることを知らないように流れていって彼を困らせる。
手で涙を押さえて止めようとするがその行為を振り切って涙は頬を伝っていった。距離があった彼との距
離も一気に縮まる。ぽんぽんと頭を優しく叩かれれば疑ってしまった自分が憎らしくなって顔を俯かせる。
彼もそれがわかっているのか微笑んでから私の片手を握り、ぐい、と上に引っ張り上げた。涙でぐしゃぐし
ゃになった顔を見られたくなくて顔を必死で片手で隠す。するとふいに私に影が覆った。何かと思ってみれ
ば牧のブレザーが頭にかかっていて、顔を彼に向けると苦笑しながら口を開いた。
「何か言われるの嫌だろ。」
「・・・・・あ」
行くぞという合図もなく牧は私の手を引っ張る。いわゆる手を繋いで歩く、だ。私のことを全てわかっている
のに私は彼のことを全くわかっていなかった。恥ずかしいな。今更だけどそう思ってしまった。今思えば私
は彼を試していたのかもしれない。追いかけてくる、と確信していたからあの場から立ち去ったのかも知れ
ない。、なんて、ね。彼が繋いでる手をぎゅっと握り返すと「ん?」と返ってくる。「何でもないよ。」首を横に振
って言ってみれば「何だそれ。」と笑った。その表情を私の、きらきらと輝いている世界で見れたことが嬉しく
て嬉しくて堪らなくて。ブレザーを頭から肩にかけるようにして足を一歩大きく出し、牧と隣同士になるように
した。
「変な奴。」
「牧。」
「何だ?」
「、ありがとう。」
「どういたしまして。」
世界は輝きを放った
2006.3.28