歩くと薄紅色の花弁が一層綺麗に舞い上がる。この季節は本当に安心出来る。不安定な時期、と言う人もなかにはいるが私はそうは思わない。心機一転、逆転のチャンスだ。何の?と言われると苦笑で返すしか出来ないけれど。ふわり、と風が私の背まである髪で遊んで目の前を妨げる。反射的に目を瞑ってしまって。もー・・・・何なのよ。そう呟きながら髪を元の位置に戻すと視界に色が映った、と同時に今まで動いていた足がぴたりと止まった。薄紅色の花弁が舞う中に不似合いなのかお似合いなのかはわからないがきらきらと上から照りつける日の光に銀髪が反射して眩しい。一旦、風のざわめきが止む。瞬間、目の前で隊長格が着る羽織りが翻り意地の悪そうな顔がこちらを向いた。


「乱菊。」
「、ギン。」


彼は口元を緩めて片手をひらひらと振って私の名前を呼び、奇遇やなァこないなとこで会うなんてと言いながら私との距離を縮める。地面と草鞋の音が何ともいえない思いにさせて思わず息を呑んだ。どうしてこの男は・・・・。頭の中で過ぎては蘇って、過ぎては蘇って、とまるで輪廻するように浮き上がる思い。それは一言ではとても表せなくて私自身をずっと困らせているものだった。


「どないしたん?そないな怖い顔しなさって。あの隊長さんにまた叱られでもしたん?」
「市丸隊長とは違うのでそのようなことはないかと。」
「あらら。酷い言い草やね。」


つんとした態度で返すと先程と変わらない笑顔で私に言う。この笑顔は本当に昔から変わらない。それが怖くてたまらなくて私は何度逃げ出したくなったことだろう。隊舎で、道ですれ違う度にこの笑顔で私に平然と話し掛けてくる。その度に私は新しい顔をどんどんと作るのだ。誰にも本心を見せない。閉ざしている。そんな表情、そんな笑顔。覗くな。そう遠まわしに言っているようで怖かった。拒絶されているようで怖くて怖くて仕方がなかった。 ギンが急に道から反れて茂みの中へと進んでいく。何をしているんだこの男は・・・。はぁと呆れていることを伝えるかのように息を吐いて私も彼の背中を追った。


「、あ。」
「・・・・・・・懐かしいなァ。」


信じられなかった。まさか、覚えているわけがない。そう今まで思っていたから。けれど今日此処で彼を見て話して、どこか期待している自分がいたのは確かだった。目の前に広がるのは黄色いものでどこまで続くの、と言いたくなるほどそれは埋め尽くしていた。微笑んだまま彼はずんずんと黄色いものと同化するように歩いていく。そして腰を屈めて何をしているのかと思えば私の方を向いて口を開いた。手にあるのは黄色いもので。


「タンポポ。綺麗やな。」


その時の彼の笑顔は優しい、ものだと私は感じ取った。心からそう思っているのだろう。何も言わない私に疑問を感じたのか乱菊?と問い返している。昔のあの時と同じだ。この場所を見つけて二人で遊んだ時も、ギンは優しい笑顔で私を見ていた。私にしか見せていないのか、なんて思うと嬉しくて笑いが零れる。何やの、急に笑い出して気色悪い。彼は笑う。私も笑う。


「、何でもないわ。」


言った直後、私の足は黄色いものと一緒になっていて。彼との距離を今度は自分から縮めた。





堕ちるならどこまでも供に






「なぁに?ギン。見せたいものって。」
「見てみ。」
「、うわぁ・・・!キレイ!」
「な?偶然見つけたんやけど、乱菊にも見せたろー思ってな。」
「うん・・・・キレイ!キレイだねギン!」
「ココのことは秘密な。」
「?」
「大人になっても、ココのことは絶対秘密。な?」
「・・・・うん!じゃぁ大人になってもココにまた一緒に来ようね!」
 




2006.4.6



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