ばたばたと慌しい音をたてて渡り廊下を駆けている音がする。誰だ?目の前にいる隊長と暫しの休憩時間。邪魔されては堪らない。それでさえも隊長は普段の任務で疲れているというのに。どんどん近づいてくる音の元をを確認するため立ち上がるのと扉が開くのはほぼ同時だった。入ってきた奴の第一印象。最悪。はぁはぁと息が切れていて手にはたくさんの書類の数。大方、ためているのがバレて今大急ぎで渡しに行っている、というとこだろう。開いた扉に寄りかかって息を整えている奴にはぁとため息を吐いてどうした?と声をかけた。
「こ、コレ・・・。」
すっと手が伸びて差し出されたものはやはり書類で。ご苦労さん。そう言い、近くにおいてあった水を差し出すと遠慮することなく飲み干した。赤い髪に刺青。よくコイツがここまで上がってきたもんだ。最初はそう思った(今もたまに思うが)水滴を一つ残さず飲むと用が済んだのかじゃ、俺はコレで失礼します!とまた慌しく駆けて行ってしまった。嵐のような奴だな。お茶を飲んでいた隊長が可笑しそうに呟いた言葉に対し苦笑してそうですねと返した。
***
日が暮れるのが早くなった。まだ5時前というのに空が紅く染まりかけている。早くこれを届けないと。その思い一心で渡り廊下を歩く。顔を横に向けると見えるのは紅葉した木々。黄色のものもあれば既に赤に染まっているものもある。冬の訪れの前触れだ。正直、冬はあまり好きではないので苦笑せざるおえなかった。
「うおっ。」
顔を正面から背けていたため前の人に気付かなかった。曲がり角でよくある衝突事故(と言えるかはわからない)。相手の人も顔を背けていたのかぶつかった反動で尻餅をついていた。自分はと言うと思っていたとおり、届けるよう頼まれていた書類を見事に散らかしていて。やってしまった、という思いがため息として零れ出た。
「・・・・だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。」
呆気にとられて俺を見ている彼女に手を差し伸べると素直に手を重ねてきたので引っ張り、体を起こした。スミマセン、余所見をしていたものですからと謝りの言葉を言うといや・・・私にも非はあると彼女にしては珍しい言葉を返されたので目を丸くする。
「・・・、何だその目は。何か不満でもあるのか。」
「い、いや別に・・・何でもないです。」
「そうか。それにしても・・・・」
ぐるり、と辺りを見回して砕蜂隊長はふぅと息を吐いて口を開く。呆れているのだろう。派手にやったものだと言いながら彼女は腰を屈めて近くにある書類を集めてくれた。慌てて俺も周囲に落ちている書類を拾う。
「コレで全部か。」
「はい。ありがとうございました。」
渡された書類の枚数を人差し指で数えて全部あるかしっかりと確認した後にお礼を言うと砕蜂隊長はふっと微笑んで今度からは気をつけろとだけ言い前へと進んで行った。横から風が吹き、色をつけた木々をお構いなしに攫っていって地面へと落としていく。遠ざかる彼女の小さな背中を見つめて
いると結わっている部分の髪が僅かにだが、左右に揺れていた。
たとえ届かない祈りでも
「アレ。修兵さんじゃないッスか。」
「恋次。」
「どうしたんスか。こんなとこで呆けちゃって。」
「お前が間違えて書類渡してたからソレを届けに。」
「えっ・・・・(ヤッベー・・・!)」
2006.4.4
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