花弁が舞い上がり空を背景にして踊る。ひらひらと、優雅に。そんな風景を横目に私は前にいる彼の背中に視線を戻した。足を前に出す度に薄紅色の花弁を踏んでいる気がしてならない。ごめんね、と一言心の内で言ってから新しい一歩を踏み出して彼に近づいた。
「あ?」
「、どうしたの?」
「・・・・それ俺のセリフなんだけど。」
「え?」
急に振り向いた彼の言葉が理解できなくて首を傾げると「・・・頭大丈夫か?」と真剣な顔で私に言ってきたので「酷い!」と頬を膨らませると「冗談だって。」と苦笑しながら私の手をとった。何だったのだろう?と思いながら彼の手を握り返し肩を並べて、歩く。コツコツというブーツの音と彼の靴の音が耳に聞こえる。リズムが一緒で変なメロディが出来上がっていて何だかおかしくて笑ってしまった。「何?」とこっちを向いて彼が聞いてきたので「ううん、何でもない。」とだけ言って先程とは逆の立場に入れ替わる。
「懐かしいね。」
「何が?」
「この道。」
「いつも歩いてるだろうが。」
「そうだけど。何か、懐かしい感じがする。」
「変な奴。」
変わらない街並み、変わらない匂い。私達も変わらないでいられるのだろうか。ちらりと目線を上げて彼を見上げてみる。変わらない髪の色に変わらない面立ち。すぅ、はぁと深呼吸をゆっくりしてみる。やっぱり、変わらない、空気。私達はこれからどうなるのだろう。変わらないで、新しい道を歩いてしまうのだろうか。それが悲しいとか言いたいのではなくて、どこか寂しい感じがして怖いのだ。たつきちゃんや水色くん達とまた馬鹿みたいに大騒ぎして笑い会える日が来るのだろうか。二人のカバンの中にある筒の中には私が、彼が新しい道を歩いてもいいと証明する紙が入っている。私が、彼が新しい道を歩いてはいけないとは誰にも言えない。
「織姫。」
「え?」
「見てみろ。」
「・・・・、う、わぁ」
謝恩会を抜け出してまもなく日が暮れるという頃に私達は歩いていた。変わらない道のりを。下を向いていて見えた景色とは比べ物にならない程綺麗な、雄大な、夕日が私達を見ていて思わず視界に映った瞬間感嘆の声を漏らしてしまった。その声に満足したのか彼は「な?綺麗だろ?」と子供のような笑顔で私に笑いかける。夕日の光が側にある木から舞い降りる薄紅色の花弁を上手に照らし、いつもと変わらない道が、今は全く別の場所のように思えた。
「変わらないってのは違う。」
「、一護くん?」
「変われない、んだ。そう思ったら誰だって変われない。」
「・・・えっと、」
「お前は変わらないのをいつのまにか受け入れてる。けどそう思ったら誰だって、総理大臣だって変われねぇさ。」
彼が私と繋いでいた手を離して一歩、二歩、三歩前に歩き夕日を見つめる。自然的に私は変わらない、彼の背中を見ることになった。オレンジ色の髪が夕日に照らされてより一層綺麗に見えた。変わらないのではなくて、変われない。変わらない、といつも思っていたら変わろうと心の片隅で思っていても変われないんだ。そっちの方が、変わらないという思いのほうが強いから。だから人は、変わらない。
「でも俺達は違ぇだろ。変われる方が、そっちの気持ちの方が強いはずだ。」
「・・・・一「だから、」
私の言葉を遮った彼は振り返って私と視線を交える。ゆっくりと夕日が沈んでいってるのか徐々に空が暗くなっていくのを感じた。聞こえてくる無邪気な子供の声。車の音。木々が喋りあう音。これらは全て、変わることはない。変わらなくていいから、変わらないという意志が自然に決まっているから。けれど、私達は違う。変わろうと思えば、変われる。
「俺の家に来い。」
「え・・・。」
「さすがに一人の生活はもう飽きただろ。親父も夏梨も遊子もお前のこと気に入ってるし何の支障もねぇ。」
「・・・一護くん、」
腕を掴まれ彼の胸に顔をあてる形になる。鼓動の音が聞こえる。変わらない、音。頬に伝う涙は変わった。今は嬉しさの涙だ。悲しさの涙ではない。涙は変わろうと思ったから変わった。形は一緒だけれど意味は違う。それは私達も一緒だろうか。形は一緒でも意味は違う。新しい一歩を踏み出すキッカケを、私が変わろうと思うキッカケを、彼は作ってくれた。ありがとうと、言いたい。
「泣くなバカ。たつきにボコられっだろ。」
「ゴメ・・・、でも」
「あーもー。何でさらに泣くんだよ。」
「一護く・・・、ん。」
「?」
「ありがとう・・・っ」
視線をしっかり合わせて私が言った言葉に彼はふっと笑って「アホ。」と言い私の涙を拭った。「ありがとう。」という言葉は形は同じでも意味は色んな意味がある。それはきっと本人達が意識しているからであって、決して変わりたいって思ってないという訳ではない。変われる。人は、私達は変われるのだ。たとえ茨の道を歩いてしまったとしても、自分が思っていない、違う道に行ってしまったとしても、私達は変われる。変わろうという思いが強ければいつだって、新しい一歩を踏み出すことができるのだ。
Graduate
後書きは・・・Memoで語らせてもらうことにします。読んでみて下さいね(笑)
一応高校卒業した日(卒業式)という設定。一護の言葉とタイトルの色に非常に時間がかかりました。
2006.3.4