彼は、このことを、知らない。
深夜。部屋の明かりもスタンドだけになった時にあの人はよく此処を訪れるようになった。
カーテンを隔ててあるその窓ガラスをこんこん、と2回ノックされたらそれは必ずあの人だ。
今日もまた同じように窓ガラスが静かに2回こんこん、という音が外の世界と比例するかのような室内に響いた。
(・・・・また、来たんだ)口に近づけたマグカップをゆっくりと前にある小さなテーブルに置いて肩にかけたカーディガンを
羽織り直し私は戸惑いの心を持ちながら窓ガラスの鍵を捻る。カラカラ、とそれは瞬く間に開いて窓が開いたと頭が理解した時は
もう既に、(いつも)あの人は私の部屋に足を踏み込んでいるんだ。
「よゥ。」
「、こん、ばん、わ・・・。」
私の返した言葉にぷっと噴出して「何でカタコトになんだよ?」と自分が開けた鍵をしっかりと閉めてカーテンも、閉めた。
(・・・・あぁ)また私は彼に対して謝ることが増えるんだなぁ・・・。
ぼんやり、素直にそう思っているとあの人がいつの間にかさっき私が座ってたところに座っていて「お茶くれ。喉渇いた。」と
いつもと(本当に)変わらない風に言ってのけた。ここで何で私が!ってゆーか帰って下さい!と怒れたら一番いいのだが生憎
体がいい子じゃない。「はい。」と返事をして足を台所へ向かわせてしまうのが今の私の一番いけないところだ。
小さなテーブルの上になるべく大きな音をたてないよう注意を払って季節に似合わない氷が入ったガラスのコップを置くと中の
氷が崩れたのかカチャリ、と鳴った。無意識に強張る、体。前はこの音が合図のようなものだったから。でもさすがに今日は違う
らしく徐々に過ぎ去っていく、「後」と呼べる時の流れに安堵の息が零れでた。
「最近アイツと、どうなんだ?」
「え、」
私が読みかけの雑誌をぺらぺらと捲っていた手が止まって問いかけてくるその人の目は真剣そのもので。反らせない。
答えようと僅かに口が開いているが腕を掴まれたことによってそれも全て閉じてしまった。
ここで拒否の反応を相手に示せばいい。示せばいいのだけれど示せないのは体の(心の)どこかで(この人を)
求めている証拠なのかもしれない。
このことを彼が知ったらどう思うだろう?怒られるのかな。叩かれるのかな。呆れられるのかな。ぐるぐると頭の中で回る罪悪感
は大粒の涙となって露になる。そしたら必ずこの人は全てお見通しかのように涙を拭ってくれて優しく唇を重ねてくる。
そういう全ての行為が私にとってはつらいことなのに。いけないことなのに。
でもこの人のそんな優しい行為に甘えている私がいるのは(絶対に)確かなことなんだ。
「、織姫?」
「・・・っ一角さ、」
名前を呼ぶと一瞬目を反らされる。かと思ったらお構いなしに行為を続けられた。(、知ってるよ。)貴方が彼に対して罪の心をもっていること。このことをお互い言わないのは罪、という意識をちゃんともっているからでしょう?今日も終わった後に二人の心には罪が残るからまた彼に言えないことが増えてしまう。これがいけないことなんて、最初からわかっていたのに。なのに止めることが出来なかったのは私が(貴方が)溢れる欲情を抑える方法を知らなかったから。(あぁ私達は、)
(何て馬鹿なのだろう。)
欲情を吐き出した後に残るのは
罪の意識、ただそれだけ
2007.3.11
一護×織姫←一角で。何か夜のお話を書きたくなったので。
角織は切ない系が私は好きです。