カチカチ、とシャー芯を出すポキッと綺麗に真っ二つに折れた。
何か縁起悪いなァ・・・。そう思いながら筆箱からシャー芯が入った小さなケースを出そうと探したが見つからない。
(、しまった。)昨日ちょうどなくなって今日買おうとしていたことを思い出すと同時に浮かび上がった言葉は「今日
はついてない。」だった。はぁとため息じみたものを吐いて購買に買いに行こうと仕方なく席を立とうイスを後ろに引いた
時前からすっと手がでてきた。手の上にはたった今私が求めているシャー芯がのっている。少し目を瞬かせてから手の持ち主
を視線で辿っていくと見慣れた橙色の髪と目が合う。
「シャー芯。なくなったんじゃねぇの?」
「、黒崎くん。」
彼の前には私と同じようにノートと教科書に参考書。どうやらこの場所にいる目的も同じようだ。手にのっているシャー芯を
ちょっと躊躇いながらも受け取って「ありがとう。」と言うと「別に。」と返って来た。
素っ気無い返事だけど私はそれだけで充分満足だし嬉しいことであって。折らないようにそうっと芯をシャーペンの先の方から
いれて全て入ったらさっきと同じようにカチカチと音を鳴らして芯を出す。
(よし。)準備完了。これから勉強体制に入ります。よっし!と自分しかわからない程度の大きさで喝をいれて数字が並ぶ問題集
の問題に目をやっていく。でもその前に大事なことを忘れていた。
「・・・・・・・んー・・・うー・・・」
私は数学が大の苦手だ、ということ。
ちらりと前を見やると黒崎くんにとってはこの問題集は簡単なのかスラスラと解いている。
(スゴい・・・。)感心してじぃっと見ていると目線に気付いたのか顔を上げた彼と視線がばっちり交わってしまった。
この冬の空の中、元気に部活動に励む人達の声がやけに大きく聞こえる。
「・・・・わかんねぇの?」
数秒見つめあっただろうか。何とも言えないこの沈黙を打ち破った(大げさかな?)のは黒崎くんの方だった。
「え!」と言うと彼が持つシャーペンで今私が苦戦している問題を指してトントンと小さく叩く。
黒崎くんにとってはとても簡単な問題だ(と思う)から肯定するのは恥ずかしくも感じたがここは素直にいこうと即座に決めて
首を縦にゆっくりと動かした。するとカチカチ、と芯を出して私のノートを取り何かを書き始める。
彼の今の行動が理解できない私は戸惑うばかりで。「あ、あの・・・!」と声を出すがどもってしまっていて自分でも情けなく
思った。
「コレでわかるだろ?」
返された私のノートには意外と綺麗な字で解答となる式がきちんと書かれていた。
式を順に目で追って私の頭に伝達させる。と、先程全く閃かなかった脳みそが嘘なのではないかと言えるほど閃いた。
「わかった!」
「な?」
「うわーそっか!」
冷めやまない興奮(言いすぎ?)が一気に私の脳内に集中してきて自然に感嘆の声を口から零れさせる。
私の反応を見て黒崎くんは予想外だったのか、くっと少々笑いを漏らした。
(・・・・今笑われた?)
「悪ィ悪ィ。そんな喜ばれるとは思ってなかったんで。」
「いやだって!スゴいよこの式!この付属の解説よりわかりやすいもん!」
「それは大げさじゃねぇ?」
「そんなことないない!本当だよ!」
「そりゃどうも。」
頬杖をついてまるで子供のようににかっと笑う。(あ。)そうだ。この顔。私はこの顔が好きなんだ。
からかわれて鬱陶しがっている顔も、本当に、本当にたまぁにだけどマジメに変わる顔も私は好きだけど一番好きなのは
子供のように無邪気な、笑顔。
「井上?」
「え、あ!うん!ありがとう黒崎くん!」
今、本当に本当に一瞬だけど出てきてしまった思いに私は急いで蓋を閉めた。その思いが膨れて、どんどん大きくなっていっている
のに気付いていない振りをするのは対象人物が彼だからであって。彼じゃなかったらきっと今頃こんな絶好なチャンス逃してなんか
いない(・・・多分)何も言わなくなった私を心配してか顔をのぞきこむように黒崎くんは話し掛けてきた。不自然な声の上がり様
に彼は疑問を感じたと思う。けど、何も言ってこなかった。何も。
またさっきと同じように二人ともそれぞれの問題にとりかかる。問題の解き方を考えるため頭を使うけどやっぱり頭の中は黒崎くん
のことを考えていた。(もう少しでこの問題は解けるのに何で・・・)
何で目の前の彼のことばかり気になってるんだろう。
「、井上?」
「・・・・。」
「おまっ、何で泣いてんだよ?」
「・・・・っ黒崎く」
「俺何かしたか?え、無意識に何かしてたんならマジにゴメン!」
私のノートにしみこんでいく水に気付いたのか彼は私の顔をもう一度のぞきこんできた。そしてぎょっとした顔になって慌てふためい
た声で私に謝罪の言葉を言う。握りしめていたシャーペンはいつの間にかころん、と涙のせいでふやけていくノートの上で転がってい
る。虚しい。頬に伝っていく涙を両手で拭いて「、黒崎くん。」と口を開いた。
「どうした?もしかして具合悪いのか?俺んとこ来るか?」
「・・・この問題わかんないー・・・。」
解いていた問題とは違う問題を指差した。彼はと言うと口をはの字に開いて「もしかして・・・それで泣いてた、とか?」と私に聞いて
きたため首を縦に振った。黒崎くんの盛大なため息の意味はおそらく呆れであって。私の目から溢れだした涙の意味は、おそらく、・・
・・・いや絶対に、
「教えてやっから泣くな。な?」
「・・・うん・・・ありがとっう・・・っ」
だーかーらー泣くなっつーの!困ったようにぐしゃぐしゃと橙色の髪を撫で回す。ゴメンね。そう呟くと別にいいからその前にとっとと
泣きやめ!と言われて。必死になっている彼が何だかおかしくてちょっと笑ってしまう。ゴメンね。それは今の彼に対する言葉でもあるけどもう一つの意味が、ある。
でもそれは、言葉にしてはいけないことだから。
「黒崎くん、」
「あ?」
「貴方のことが、大好きです。」
呟いた「ゴメンね。」は
嘘をついている私に対して
2006.12.9
少女漫画のような恋を書いてみたくなったのでこの二人に。