「檜佐木。」
「砕蜂隊長。」
木の上で物思いにふけていたら下から自分の名を呼ぶ声がしたので幹に預けていた背を起こし視線を下に向ける。
すると砕蜂隊長が微笑んで自分を見ていたため視線が交わった。
「東仙が探していたぞ。」
「え・・・。」
その言葉を聞いた俺は即座に木から地に飛び降りる。
砕蜂隊長はその時にはもう最初来た道を進んで行っていた。
少し早歩きで小さな背中を追いかけ一定の距離を保ち、進む。
「お前はあの場所が好きだな。」
隊の詰所が目に見えたところで砕蜂隊長が俺にそう言った。
勿論、顔は前を向いたままで。
「え?」
「いつもあそこにいるだろう?」
今度はちゃんと俺に顔を向けて言う。
優しい笑みだったので自然に心臓の鼓動が早くなるのがわかった。
「あ、え、ハイ・・・。」
「今度行く時は東仙に一声かけてからにしろ。あまり隊長に迷惑をかけるな。」
手厳しい言葉。
だが口元は笑っているので怒っていないということがわかる。
「それは・・・」
「?」
「経験談ですか?」
俺が聞くと隊長は一瞬驚いた顔をして自分を見てきた。
数秒経過したかと思うとふっと瞼を下ろし先程と同じ笑みで「そうだな・・・そうかもしれない。」と言って二番隊詰所の方に歩いて行った。
「修兵、ここにいたのか。」
「東仙隊長。あ、スミマセン。探していただいていたようで・・・。」
「いや、構わない。ところで・・・何か良い事でもあったのか?」
「・・・何でですか?」
「すごくいい顔をしているから。」
2005.11.17 Smile