春。風が心地よい季節。
桜の木の中では高さは低い方か・・・。 枝に髪が引っかかってしまった。とろうと引っ張るなどして努力を試みるが空回りするばかり。 いっそ刀で髪を切ってしまおうか。そう考えていた時木の上で音がした。


「誰だ?!」


つい強気の口調になってしまった。が、今更気にしたって仕方がないこと。 同時に「砕蜂隊長・・・?」との声を後方から耳にしたので振り返る。


「檜佐木か・・・?」


風で桜の花弁が舞ったので視界が悪くなった。 思わず目を細める。花弁が地に落ち一段階舞い終えたと思うと先程まであった髪の違和感がなくなっていたことに気付いた。


「髪が引っかかっていたんでしょう?」


いつの間にこんな距離になったのだろう。檜佐木はすぐ後ろにいた。 反射的に1歩後ろに下がってしまう。その行動を見た檜佐木は不思議な顔になったが何かを思い出したのか「ヤベッ」と言い私に背 を向けた。


「じゃぁ砕蜂隊長、失礼します。」
「あ・・・あぁ。」


一礼をされ少し戸惑ったがいつも通りに返事をし、走って前に向かっている檜佐木の背を見送る。 けれどそれはほんの少しの時間のことで、私は「檜佐木。」と呼び止めた。 近づいて檜佐木の肩に手をやる。


「花弁。」
「あ・・・ありがとうござい、ます。」


気のせいか檜佐木の顔が赤く染まっているように見えた。 私は一瞬微笑み「木の上で寝るのも程々にな。」と言ってから檜佐木を抜かす。 多少2人の距離に差が出来たところで再び振り向いて口を開く。


「さっきの事は礼を言う。ありがとう。」


再び風が吹き桜の花弁が舞い踊る。 舞った花弁の一片が檜佐木の手の平におりてきたが柔らかく花弁を傷つけないように握り締めた。 檜佐木は嬉しそうな笑みで足を一歩前へと、踏み出した。
春。何かが始まる季節でもある。






2005.11.17 Spring...